調べてみたら意外と少ないBG80系の比較レビュー。備忘録的な用途でレビューしてみます。
比較で使った機材はこんな感じ。
- ラケット → フォルティウス10
- 張り方 → ゴーセン張り
- テンション → プレスト無しの28ポンド
各ストリングのスペック
因に今回の4種類のストリングはN68を除いて「ベクトラン系」の硬いストリング。線形は全て0.68mm。
クラレが発売している、液晶ポリマーを原料として紡績された繊維のブランド名。強く、伸びにくく、振動吸収性のある高機能繊維。航空宇宙、軍事、医療用途に使われているみたい。全部ベクトランでストリングを作ればいいじゃん、みたいに言われそうだけど、硬すぎて?使えないから芯糸と側糸の間くらいに挟んで使っているみたい。
BG80

ヨネックスのスーパーロングセラーストリングの一つ。過去にはリンダンやイヨンデ、今ではビクターアクセルセンなど、数多くのトップ選手が使用してきた高性能ストリング。韓国での使用率は圧倒的に高い。中国の超有名ストリンガーが自分でとった統計によると2024年で一番張られたストリングはBG80だったみたい。それと、565km/hの世界記録を更新した時のストリングもBG80。
Yonexの公式では「弾き」に分類されている。個人的には弾きというイメージよりは、「反発」みたいな単語の方があっているような。
キャッチフレーズは「強烈ヘビースマッシュ」。このキャッチフレーズは結構大事で、どういう意図で開発されたか方向性がある程度理解出来る。
側糸は楕円で、編み込んで形成(ブレーディング加工)。表面のザラ感が強い。芯糸はハイポリマーナイロン。ヨネックスはハイポリマーナイロンと、高強度ナイロン、2種類の芯糸を使っている模様。
BG80 Power

2011年に発売されたBG80のモデファイドバージョン。最近だとシーユーチーが使用している。
キャッチフレーズは「強靭パワースマッシュ」。BG80とのフレーズ比較は面白い。イメージ的には「強靭」は強さとしなやかさを感じて、「強烈」は一瞬のインパクトってイメージが含まれている。
芯糸はBG80, M-Smooth68S, N68とは異なり、高強度ナイロンが使われている。性質の違いは不明だけど。
側糸はBG80とは異なり真円。編み込んで形成(ブレーディング加工)されているけど、表明はより滑らか。表記はされていないけど、表面はナノパワーコーティングされているらしい。
M-SMOOTH 68S

2022年に発売されたミズノの国産ストリング。西本拳太選手がミズノ契約時に使用していた。BG80にミズノ的な要素を加えたストリング。MS68Sの「S」はStiffという意味なのかな?
キャッチフレーズは「ハードヒッターが活きるパワースマッシュ」長いな。
芯糸はBG80, N68と同じハイポリマーナイロン。側糸もBG80と同じ楕円の編み込み。最大の違いは「SMOOTH RESIN+」という低摩擦ナイロンのコーティング。このコーティングが球持ちと反発性を向上させているらしい。球持ちはわかるけど、コーティングにより反発性が向上とはどういうイメージなんだろう。
N68

No.シリーズの後に2021年に発表されたNシリーズ。Nシリーズは日本のストリング会社のOEM。N68はBG80を意識して作られた製品。
時にキャッチフレーズはないけど、BG80と同じく「高反弹」という位置づけで、HARD FEELINGと表記が。
芯糸と側糸共にハイポリマーナイロン。側糸はBG80と同じ楕円形の編み込み。素材はハイポリマーナイロンとだけ表記があるけど、パッケージのイラストを注意深く見るとベクトランらしき素材が混ざっているように見える。価格に影響するから記載してないのかな。
線形について
テンションをかける前は表記より太く、26ポンドに伸ばした時に該当のゲージ数になるように設計されているとの事。こんな感じで測ってます。

BG80P以外は全て楕円の側糸を使っている為に、微妙にバラつきがある。
モデル名 | 線形の実測値 |
---|---|
BG80 | 0.76mm |
BG80 Power | 0.72mm |
M-Smooth 68S | 0.74mm |
N68 | 0.76mm |
打球感の比較
この4種類はジャンル的には「硬い」ストリングで、誰でもお勧めできるわけではないので悪しからず。
ストリングの表面
表面のザラ感はこんな順序。
BG80 > N68 > MS68S > BG80P
BG80、MS68S、N68は側糸の加工が同じだからかなり近い。BG80のデコボコ感はやや強目だけど、N68と大差はないかも。BG80Pは均等にザラッとしてる。
硬さ
何をもって“硬さ”とするかの定義が難しいところ。スマッシュ時のガツンとくる感じは、
BG80 > N68 > BG80P > MS68S
BG80のタッチ感は金属的で、ややドライ、ザラザラ感が強く情報量多め。震動吸収性が一番低く、スマッシュ時に震動が直接伝わってくる。圧倒的なパワーの伝達率。
N68はBG80ほどのパリッと感はないけど、重い感じの硬さがある。
BG80Pはしなやかなんだけど、スマッシュ時は芯をバリバリ感じる。だけど、反発性があるぶん、BG80ほどのダイレクト感はない。N68とBG80Pどちらが硬いかと言われると悩むところ。
MS68Sは4種類の中では一番マイルドな打球感。もちろん芯があるから打ちごたえはベクトラン。
反発性
自称弾く系だけど、昨今の弾く系(エクスボルト63やライゾニック65みたいな)とは違うかな。個人的には「弾き」というよりは「反発系」みたいな感じかな。硬くてソリッドだから、軽いドライブレベルだと大きくは変わらない。
スマッシュを打った時の伸び感はそれぞれ特徴がある。伸び感は、
BG80P > BG80 > N68 > MS68S
BG80Pは硬さと反発のバランスがナイス。後半も速度が落ちにくく感じる。
BG80の切れ味は一番良く、爆発感がある。世界最高速を出したストリングだけあって、四種類の中で初速は一番速いと思う。だけど、後半の伸びはBG80Pほどは気持ちない感じ。
N68はやや軽めに打つと反発感を感じにくく、ちゃんと押し込むとBG80Pに近い反発で球が伸びる。だけど、高反発というよりは、ググッと遅めで反発する感じ。
MS68Sはタッチ感がやや濁ってるけど、しなやかに反発。
タッチ感
情報量の多い順はこんな感じ。
BG80 > BG80P > N68 = MS68S
BG80はもちろんエクスボルト63, 65みたいな繊細さはないけど、0.70mm系ほどのダルさもない。硬いからタッチは速いし、打球感は必要十分にクリア。
BG80PはBG80と比べると僅かにモワッとしているレベル。N68はモワッというより、ゴワっとしたタッチ感。MS68Sはよりソフトで、フワッとしているイメージ。
打球音
BG80は乾いた爆発音。細ガットみたいな高音ではないけど、バチュイーンとやや高めの金属系の音質。
BG80PとMS68Sは、ベチュイーンとやや低中音。そんなに気持ちいい打球音ではない。N68は言われているほど音は良くない。BG80Pより僅かに高音といった程度。
耐久性
MS68S, N68は現在計測中。BG80とBG80Pだと、BG80Pの方が摩擦に強い、つまり切れにくい。BG80は4種類の中では一番しなやかさが欠けてるから、急な衝撃で切れやすい印象。下手切れしやすいストリングの一つかと。
張り替えれば問題は解決するので、個人的に耐久性の重要度はそんなに高くない。
ザラザラ感 | 硬さ | 反発性 | タッチの透明度 | 打球音 | 耐久性 | |
---|---|---|---|---|---|---|
最上位 | BG80 | BG80 | BG80P | BG80 | BG80 | MS68S? |
2番目 | N68 | N68 | BG80 | BG80P | N68 | N68? |
3番目 | MS68S | BG80P | N68 | N68 | MS68S | BG80P |
4番目 | BG80P | MS68S | MS68S | MS68S | BG80P | BG80 |
まとめ
この0.68ミリ硬め、というよりBG80というジャンルは、シャトルの重さと形状、ストリングの素材、カーボンラケット、選手レベルの筋力や技術など、様々な要素の組み合わせが長年試された結果、ストリングが行き着いた結論の一つ。
BG80P, MS68S, N68はやや似ている打球感で、BG80は他とはちょっと異なる。硬くて、ややドライな独特のタッチ。この硬さ、ソリッドさ故に、ラケットの個性が素直に反映されるストリングといった印象。BG80のコントロール性能は四種類の中で間違いなくトップ。伝えたいだけダイレクトにパワーが伝わるストリング。
欠点もあって、BG80は今回比較した中で一番テンションロスが激しい。張りたてと一週間後では面圧が一番低くなっていた。すぐに張り替えないなら、プレストを10%くらい入れといた方がいいかも。
それとBG80はカラーで打球感が明らかに異なるというのも良く知られた事実。某オリンピックの金メダリストはイエロー一択だったり、ある選手はホワイト一択だったり。
自分なんかは、フォルティウス10にBG80だと、タッチが速く、操作感は良い感じだけど、ダブルスで後ろから連続して打つ場合はBG80Pの方が疲れにくい。
BG80だと硬すぎる人は、MS68Sが丁度いいかも。BG80の表面にコーティングして、尖りを抑えてマイルドに調整された打球感。台湾ではMS68Sの評判は高いみたい。
カラーラインナップで頭を悩ましている人は、N68がお勧め。日本だと4種類?選べる。上からの球は若干抑えが足りず滑る感じがあるけど、硬さは十分で、反発もBG80Pより少し劣る程度。
選ぶ時は基準が必要だから、BG80を基準として、こんな感じで選んでみてもいいかもしれない。
- ダイレクト感、タッチの速さ(コントロール性能)重視 > BG80
- 連続スマッシュ、BG80よりグッと入る感(反発性)が欲しい > BG80P
- BG80系は硬すぎるけど、パワー系のストリングを使いたい > MS68S
- 白やイエロー以外を使いたい > N68
個人的にはBG80Pのバランスの良さが気に入ってる。フォルティウス10との相性もナイス。
ベクトラン系のストリングは、コシが強く、パワー負けしない硬さがあるから、ある程度パワーがあって打てる人、柔らかすぎないラケットを使わないと性能を生かせないという欠点も。最低でも26ポンド以上で張らないと、ダルさが勝ってくる。28ポンドでも足りない気がする。「BG80使うならいつもよりテンションを落として使え」みたいな人をたまに見かけるけど、落とさないと使えないなら別のストリングを使った方が楽しくバド出来る。
それと28ポンドでの計測だから、30ポンドを超えた場合は、線形がより細くなってストリングの性質も変化してくる。つまりは打球感も若干変わってくるという事。
因にBG80並みに硬いストリングも存在していて、AshawayのZyMax68TXを試してみても面白いかと。キズナのZ66LustyもBG80の好敵手。
ビクターのVBS68, VBS68Powerはベクトランが使われているけど、VBS68はオンラインショップ、リアルショップ共に販売しているところを見たことがない。多分作ってないね。
VBSシリーズやリーニンのNシリーズもKizunaがOEMで作ってるようだけど、ミズノのMS68SもKizunaが作ってそう(推測)。Kizuna自体はYonexの技術の人が独立して作った会社だから、結局は同じ家族内のストリングといった感じ。